総合広告代理店における営業とは?①AEとルート営業

さて、これまで営業の種類や手法を見てきましたが今回は主に総合広告代理店における営業をご説明していきたいと思います。

広告代理店の営業はアカウントエグゼクティブ(AE)という固有の呼称で呼ばれ、クライアントと広告代理店の架け橋となり、利害の調整や業務の円滑な遂行を果たす役割です。単なる連絡窓口係ではなく、マーケティング戦略、コミュニケーション戦略、メディアプランニングやクリエイティブ制作まで広告の全般的な知識が必要なだけではなく適切なスタッフィング、プロジェクト進行管理と円滑な進行に求められる総合的なスキルが必要とされます。もちろん全ての案件で全般的なスキルが求められるわけではなく、クライアントのニーズや競合の状況によって部分的にしか携わらないケースもあります。これまで見てきた営業の分類でいえばルート営業を前提とした役割となります。もちろん新規案件も担当はすることはあるのですが、今回はルート営業の視点でAEの重要性と特徴を見ていくとよく理解できますので説明をさせていただきます。

さて、はじめに米国コンサルティング会社のベイン・アンド・カンパニー社のフレデリック・F・ライクヘルド氏が提唱する「1:5の法則」によると、新規開拓は既存顧客と比較して売上をあげるためのコストが5倍もかかるという話をご存知でしょうか?この数字は一度取引を始めた顧客を大切にすることがいかに重要なことかがわかる数字であり、ルート営業の重要性を示しているかと思います。

ルート営業とは基本的に既存クライアントのみを担当する営業ですが、目標数字は大きく、企業の中でも安定的な売上げを期待される屋台骨のような存在だと言えます。

ルート営業の重要性とルート営業に求められるマインドやスキルを新規開拓営業と比較しながらご紹介します。

ルート営業:

  • すでに取引があるクライアントを担当して売上を維持拡大していくことが目的
  • 担当社数が多くさまざまな個性やニーズのクライアントに対応できるコミュニケーション能力が必要
  • 営業目標は前年ベース(成長率10%~20%等)で設定
  • 多数のクライアントの複数プロジェクトをフォローするための営業力+管理能力も必要

新規開拓営業:

  • 取り引きのない企業にアプローチし商品を販売する継続的な努力やコストが必要
  • プロダクトやサービスの内容や費用が明確なケースが多いため結論までが早い。例えば、Saasのサービスや求人や飲食店メディアの広告枠のセールスなどです。
  • 馴染みのある業界や担当者との関係性が起点となって新規取引が始まることが多い
  • トライアル価格など料金は低くスタートすることが多い。
  • 営業目標は一般にルート営業よりは低い
  • 望まれているかどうかわからない顧客へ基本的には受注率は高くないため折れないメンタルも重要。
  • 受注率が高くないためアタックするクライアント数が多くなる。
  • 伸びる業界・企業を見つけ出す嗅覚やマーケティング力が必要

ルート営業の重要性

企業の売上の内訳において、かなりの割合が既存顧客の売上で占められている企業も多く既存顧客の安定した売上があるからこそ、アプローチから受注まで長期間かかる新規開拓営業に人材やコストを投資できる企業もあります。

広告代理店業界もこの構造があるためルート営業をメインとしています。広告宣伝費を潤沢にもっているクライアント企業が毎年東洋経済などで発表されていますがランキングの顔ぶれは大きくは変わりません。ランキングの上位の顔ぶれもトヨタを初めとした広告宣伝が事業として必要な企業が多く、これらの企業では基本的にはずっと広告が必要となるため広告代理店はこれらの企業をクライアントにしルート営業を行うことで安定的な売上を上げてきたと言えます。

また、既存顧客の売上が伸びるということはその企業への信頼の証でもあります。新規開拓で新規取引から始める場合にいきなり大きな予算を出してくれるクライアントは多くありません。一度まずは小さく取引を初めて信頼と満足をしてからこそリピート発注やより大きな発注につながっていくことが基本的な流れになります。そのため既存顧客の売上拡大は、それだけ担当営業がクライアントを満足させてきたということであり、顧客満足度が高い状態こそが売上を上げていくと言ってもよいかもしれません。ただ満足度といってもクライアントが何を基準に判断するかもシンプルではなく、競合との比較も満足度に影響を受けます。

新規開拓より売上を上げやすいとはいえ、ルート営業は既存の売上を失うリスクにも晒されるため非常に大きな責任を担っておりプレッシャーはかなりのものです。

基本的にはルート営業は複数のクライアントを担当しますが、その中の大型クライアントは営業マンだけでなく企業にとって大事な財産に相当します。もちろん広告予算が多い企業には競合他社が熱心に営業を仕掛けてきます。気を緩めているとシェアを奪われてしまうため、営業マンは常にお客様へ新しい提案やフォローをし続けて顧客満足度を上げていく必要があります。

競合企業の斬新な提案に負けないような新しい提案を行うにはクライアントのビジョンやビジネスモデル、組織や文化に対する「深い理解」が必要です。万が一クライアントが他社に切りかえてしまったり、自分が担当する年度に売上が大きく落ちてしまうと、営業部門だけでなく会社全体に大きな損失を与えます。営業マンにとっても痛恨の事態となります。

新規開拓営業が攻めのセールスであるのに対し、ルート営業は売上を拡大する攻めの部分と守りの部分がある難易度の高い業務です。そのため企業にとって重要なポジションであり、大型クライアントの担当には万全な体制と優秀な営業マンが選ばれるのが常となります。

例えば私自身は広告業界ではまず新聞メディアの枠セールスからスタートしており新規開拓営業がミッションでした。ただし、この枠のセールスにおいても純粋な新規開拓営業のみだけではなく受注後の継続的に発注をいただくクライアントへのルート営業の側面もあります。さらにルート営業の中でクライアントのビジネス課題や競合が提案しない斬新な提案を行い、シェアを広げていくような流れで売上拡大をしてきました。もちろん自社内での営業としての評価にもつながり、大型クライアント担当を任せていただけるということになります。各営業においてルート営業による売上拡大の手法は様々ではあると思いますが、既存の顧客に対して関係性を深め、新たなニーズを探ったり、取引を増やしていくような営業活動を深耕営業と呼びます。次は深耕営業の側面から書いていきたいと思います。